玄冬


 

ほら、見てごらん。そこには何もない。

そこにあるのは冷えた土。そこにあるのは黒い枝。

草が枯れた跡には土だけが、葉が落ちた跡には枝だけが残る。

だから、冬の色は黒。白ではなく黒。

青い春に始まり、朱(あか)い夏を過ごし、白い秋で季節を見送った後は、玄(くろ)い冬。

赤い花は朽ち果てて、地を這う虫は姿を消した。

何もない虚無を表す黒。玄冬(げんとう)。

 

でも、見てごらん。そこには何かが眠っている。

そこにあるのは草の種。そこにあるのは固いつぼみ。

枯れた草は土に帰り、葉を落とした枝は命を溜める。

だから、冬はつなぐ季節。消失ではなく沈潜。

青春を始めるために、朱夏を駆け抜けるために、白秋に実りを得るために、静かに蓄える玄冬。

朽ちた花は土に吸われ、虫の死骸は命をつなぐ。

つなげるための季節。玄冬。

 

 

お前たちが青春を迎えるのならば、私は土を肥やしておこう。

私は朽ちた花。私は虫の死骸。私は地を耕す者。私は何かを伝える者。私は玄冬。

 

 

芽を出せ。花を咲かせよ。実をつけよ。

そしていつかお前たちが冬を迎えた時、誰かに何かを伝えるのだ。

 

 

さあ、見てごらん。あれは春の空。

まだ見たことのない春の空。